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東京高等裁判所 昭和29年(う)687号 判決 1954年7月20日

控訴人 被告人 平山格致

弁護人 池田輝孝

検察官 司波実

主文

本件控訴を棄却する。

当審において生じた訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣旨は、末尾添附の弁護人作成名義の控訴趣意書と題する書面記載のとおりであつてこれに対して次のとおり判断する。

弁護人控訴趣意第一点について

然し乍らたばこ専売法第六六条第一項に所謂公社の売り渡さない製造たばことは読んで字の如く苟くも製造たばこであつて日本専売公社の売り渡さないものの総べてを指称し、その日本における製造たばこたると外国における製造たばこであるとを問わないものと解すべきを相当とする。従つてこれを日本における製造たばこに限る旨主張する所論は独自の見解であつて到底採用し難く、此の点の論旨はその理由がない。又本件記録上証拠に現われている諸般の情状を参酌するも原判決の刑の量定は相当であつてこれを不当とする論旨も亦その理由がない。

前同第二点について、

按ずるにたばこ専売法第七五条第二項に所謂その価額の追徴とは、現実の違反取引の価額の如何に拘らず、法律上適正に認められたる価額の追徴を意味するものと解するを相当とする。而して本件各違反たばこの適正な価額は本件記録編綴の昭和二六年一二月二九日附日本専売公社公示第一〇号写(専売監視)、昭和二七年九月二九日附日本専売公社公示第一〇号写(専売監視)、昭和二八年二月四日附日本専売公社公示第一号写(専売監視)、昭和二八年五月三〇日附日本専売公社公示第六号写(専売監視)、鑑定書(日本専売公社宇都宮地方局技術員福田一行)、「駐留軍用たばこについて」と題する書面(自日本専売公社宇都宮地方局長宛宇都宮地検酒井検事)(記録四〇九頁より四一六頁迄)に明記するところのとおりであつて、本来ならば本件各違反製造たばこについては、右の価額を追徴しなければならない筋合である。然るに原判決が本件違反製造たばこにつきその現実違反取引価額を追徴し、前記適正価額の追徴をしなかつたのは孰れもその追徴価額少額に過ぎる違法あるも被告人のみの控訴に係るを以て原判決を不利益に変更することができない(刑訴法第四〇二条)から被告人の本件控訴は結局その理由なきものと謂わなければならない。

仍つて刑事訴訟法第三九六条第一八一条第一項に則り主文のとおり判決する。

(裁判長判事 中野保雄 判事 尾後貫荘太郎 判事 渡辺好人)

弁護人の控訴趣意

第一点原判決は法令の適用に誤りがあり破毀を免れない。原判決は被告人平山格致に対し懲役十月と金二十四万三千九百六十円の追徴を言渡したが懲役の部分は執行猶予がなされているにせよ量刑重きにすぎる。抑々たばこ専売法に於て許可なくして製造販売を禁止しているのは我が国に於て耕作された、たばこを政府が一手に製造販売し、その利益を国の収入として確保するにある、従つて本来専売の対象となつているのは国内のたばこであつて外国のたばこではない、外国のたばこに関しては私人が勝手に輸入することが別に禁止されているのであつて之により国内のたばこによる収益を確保することとなつているのである。従つて外国のたばこに関して之を輸入し若くは米国兵より購入することは禁止され罰せられるべきであるが、一旦輸入されたたばこを販売することはいわば不可罰的事後処分と考うべきであつて販売自体を罰する事は外国たばこに関しては適用されないというべきである。従つて販売又は所持を処罰した原判決は法令の適用を誤つたものというべきである。

第二点原判決は法令の適用を誤つた違法がある。原判決は被告人平山より金二十四万三千九百六十円を追徴する事としているが右の金額は被告人が現実にたばこを売渡した分であつてたばこ自体の価額ではない、たばこ専売法第七十二条は価額を追徴すべき旨を定めているがその価額とは売買されたたばこの価額であるべきで米国製たばこであれば米国における当該たばこの価額を円に換算した価額若くは専売公社より許可の上販売させている外国たばこの価額によるべきであり、現実の被告人の販売総額を追徴するのは根拠のない事である。或は違反者の手許に不当な利得を止めない様という考慮はあるであろうがそれによれば被告人の転売利益は販売額の一割程度にすぎない事は記録上明らかである。何れにせよ追徴の額は違法であり原判決は破毀さるべきである。

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